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神々と呼ばれたエリート達

 LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)
この名を知っている人はどれだけいるだろうか?

おそらく知っている人は知っている、
知らない人は知らない、そういう類のものだと思います。
LTCMとはヘッジファンドでかつてウォール街の
神々と呼ばれたスーパーエリート達です。
これからそんな彼らの話をしたいと思います。



一人の男がぶつぶつ呟いています。
「うーむ、あれをやるには・・・
やっぱあいつしかいないか・・・」
その男の名はジョン・メリウェザーと言います。

 彼はかの有名なソロモンブラザーズで
特に優れた成績を収め、神格化された債券トレーダーでした。
一人で呟いていた理由は次世代のヘッジファンドを
どう立ち上げようかを考えていたのです。

彼の頭の中にはもうすでに債券でどう儲けるかの優れたシミュレーションができていました。

 そのシュミレーションを現実のものとするために協力者を探していたのです。
そんな折、彼の頭の中に色んな奴らが思い浮かんできます。
それこそ、今までトレーダーとして生きてきたありとあらゆる
コネクションが頭の中を駆け巡っています。
今まさに神格化された男によって神々の集団が生み出されようとしているのです。


「おお、マイロン、元気だったか?」
「メリウェザーさんじゃないですか?
どうしたんすか。こんなところで」
「実は君に頼みたいことがあるんだ・・・」

このマイロンと呼ばれる人物はスタンフォード大学教授であり、
後にノーベル経済学賞を受賞する男です。

マイロンにメリウェザーが耳打ちをします。
「えっ!?まさかそんなことが・・・・
いや、待てよ。考えてみれば理論上それは可能」
「実はもうロバートにも頼んでいるよ」

ロバートもまたハーバード大学教授であり、
はたまた後にノーベル経済学賞を受賞するのです。

「あいつが応諾したんですか?
だとするならこれはすごいことになる・・・・」
「これから我々の時代だよ」

(怖ろしい人だ。しかし、やってみたい。
僕の理論が正しいか、どうか。実戦で・・・
それにあのロバートも動き出したって言うし、もう誰も止められない)

 今まさに理論と経済学の最先端を極める博士たちが参加する前代未聞の
ヘッジファンド、LTCMが立ち上げられようとしていたのです。


ジョン・メリウェザーはどす黒いイスに
座りながら延々と思索に耽ります。

「どうにも、後は資金だな。」

ジョン・メリウェザーはすぐにアメリカの連邦準備制度理事会
の副議長をしていたデビッド・マリンズ氏を首脳陣に迎えます。

「これで決まったも同然だ。」

 メリウェザーがなぜそう思ったか、それは実に単純なことでした。
連邦制度理事会の副議長をしていた人間を
首脳陣に迎えることによってLTCMの信頼を手に入れたのです。
何せ、アメリカの中央銀行にあたる連邦制度理事会の副議長をしていた人間です。
信用しない人間の方が少ないんじゃないんでしょうか?
この信頼を武器に一気に資金を集めることに成功しました。

 とうとうメリウェザーは兼ねてから
構想していた債券で儲けるためのシミュレーションを実行に移します。
メリウェザーは債券の性質を理解していました。
債券の利回り格差は一時的に広がったとしても、
必ず戻るということを知っていたのです。
だから利回り格差が広がったら、金利の高い債券を買い、
金利の安い債券を売るという、ある種のサヤ取りのような技術を用いたのです。
これによって確実に利益を得られるのですが、あまりにも微々たる物です。
それがゆえに多くの数をこなさなければなりませんでした。

 ここでノーベル経済学賞を後に受賞する二人の大学教授の出番が来るのです。
彼らは緻密な計算に基づき、利回り格差が広がったら、
「自動的」に金利の高い債券を買い、金利の安い債券を売るというプログラムを作り上げました。
まさに近代経済学の英知が終結された最高傑作ともいえるプログラムの登場です。

これにより、LTCMは年40%という圧倒的な利率を実現し、
金融業界に激震を走らせるのでした。

「マイロン、君の理論は正しかった」
「これでも一応大学教授なんですよ」
「我々は神々になるよ。そして世界の金融を支配する。ついて来てくれるか?」
「ええ、もちろんです」

 一般の人々には知れ渡ってはいませんでしたが、
当時の金融業界では知らぬものはいない存在でした。
それほど年40%の利率はすごかったのです。
しかも安定してそれを上げ続けました。

この事実を前に誰もが信じ込みます。LTCMは潰れない。
神々で構成されたかつてないほどの最高の集団だと。
ありとあらゆる金融工学の英知を結集した存在でもあると。

もはや誰も止められないはずだったのですが・・・・

「ロバート」
「なんだ?マイロン」
「これから僕たちの時代だよ。大学教授は研究室に篭ってるん場合じゃない。
金融工学を無知な人間に知らしめ、その偉大さを示す時が来たんだ」
「本当にそう思ってるのか?」
「えっ?」
「俺達は神じゃない。結局は人間に過ぎないんだよ。
驕ればいずれ有頂天になって何も見えなくなる。
メリウェザーはそれをわかっちゃいない」
「ロバート・・・・」
(俺は俺の理論が試せればそれでいい。それ以外に興味なんてないね)

 LTCMに陰りが見え始めました。
その亀裂は小さなものに過ぎないというのに
あたかも決定的な、何かを感じさせるものでした。
LTCMはいつしか、本当の神であるかのように驕り出すのです。


 そんな中、ロシア政府は財政的に苦しんでいました。
脱税などが横行し、収入は減るというのに
支出は増え続けていたのです。
そこにアジア通貨危機が起こり、その衝撃がもろに
ロシア経済にダメージを与えることになります。
なぜならアジア通貨危機により、投資家たちは
安全な投資というものを優先するようになったからです。
事実上、ロシア経済はハイリスクハイリターンの市場で
資本が逃げ出すのは必然でした。

 そこにマイロンとロバートが開発した自動システムが
ロシアの債券を買え、買えと指令を出します。
そのシステムは必ず反発することを前提としていたものでした。
ロシア経済の低迷は一時的なものに過ぎないと判断していたのです。
メリウェザーはすぐにそのシステムに従います。

しかし、おそるべきことにルーブルの暴落は止まらず、
すぐに逃げ出そうとするももはや手の付けられない状態でした。

「どういうことだ!?あのシステムは完璧のはずだ・・・」

自動システムは虚しく、買え、買えといまだに指令を出しているに過ぎませんでした。

「あのシステムがいうなら・・・・必ずだ、必ず反発する。
我々は神だ。この自動システムがあれば、我々に不可能はない」
「メリウェザー!もう無理なんだ。俺達のシステムでも想定できないことが起きたんだよ」
「嘘だ!あのシステムに想定できないことなどない!!」
「メリウェザー!聞くんだ。このままだったら俺達のせいで世界が崩壊してしまうんだぞ!」

資本は逃げ出すこともできず、暴落のさなか紙切れとなるルーブルと
ともにLTCMの存在価値も紙切れとなるのでした。

 LTCMはレバレッジをきかせることによって
一兆ドルとも言われるお金を動かしていました。
つまり100兆円以上の金を動かしていたのです。
そんなLTCMの崩壊が意味するところは世界経済の破綻なのです。
それを止めるためにアメリカの金融当局は半ば脅し気味に
14以上の銀行を説得し、LTCMを資金的に助けるのでした。

絶対にとめなければならない未曾有の金融機関の連鎖破綻を
封じ込めるためにこれはいが仕方ないことです。

LTCMは創立から5年目の1998年9月24日で幕を閉じました。


 神々と呼ばれる存在が破綻するという衝撃、
それは金融の神様が本当に死んでしまったかのようでした。
この自体の収拾のために骨を折った人間達は途方もない数であったことでしょう。
にもかかわらず、LTCMの社員の数は170人しかいなかったのです。

世界経済を破綻に追いやりかねない影響力を持つほどの
ヘッジファンドの社員の数が170人しかいなかったなんて意外なことです。
まぁでも170人のほとんどがスーパーが付くエリートですけどね。


このことから学ぶべきことは魔法のツール
なんて存在しないってことじゃないですかね。
もちろん、他にもきっと学ぶべきことはたくさんあると思われます。

もしかしたら彼らは一時的であれ、本当に金融の神々だったのかもしれません。




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